おでこちゃん、初めてのお使いに行く
お使いに行くおでこちゃんを尾行する兄さん兄様のお話。
見失っても賑わっている場所を探せばすぐに見つかるおでこちゃんがいたら良いなと思う!
「ウィリアム兄さん」
「何だい、ルイス」
「僕、今日は街に行ってきます」
「そう。午前中は外せない用事があるから、お昼を食べたら出ようか」
「いえ、僕一人で行ってきます」
「え?」
「僕一人で行ってきます」
ルイスが頬に負った火傷跡はもうガーゼで保護する必要もなくなった。
今では丁寧な洗浄と消毒のみで十分完治に近付いている。
主治医からは残念ながら跡が残ってしまうと言われているが、ルイス本人が綺麗に治すことを望んでいないのだ。
焼け付くような痛みがなくなった現状だけで十分満足しているルイスを見て、ウィリアムは悲しくも申し訳ない気持ちを抱えている。
自分の計画の甘さが招いたルイスの行動を悔やむように、そしてルイスの決意を労うように、ウィリアムはルイスの傷跡のケアを自らの日課にしていた。
今日も朝一番のケアを滞りなく終えたばかりだったのだが、ルイスから思いもよらないことを提案されて驚いてしまう。
正しくは提案ではなくただの宣言に過ぎないのだが、いつも一緒に行動してきたルイスが一人で街に行くなど、完全にウィリアムの想定の範囲外だ。
「どうして?僕も一緒に行くよ」
「いえ、僕一人で行ってきます」
ロンドンの一等地に位置するロックウェル伯爵家。
そこでしばらくの間だけ厄介になっているモリアーティ家の三兄弟のうち、イートン校への復学と入学を控えるアルバートとウィリアムは勉学とともに束の間の休息を楽しんでいる。
養子かつ末弟のルイスは兄達ほど忙しい身の上ではないと、いずれモリアーティ家の執務を取り仕切る立場として使用人達の動きを学んでいる最中だ。
アルバートの意向としてルイスも然るべき年齢に達した時点でイートン校に入学させるつもりだが、今はまだルイス本人にそのことを伝えていない。
ゆえに今のルイスは懸命に屋敷の管理について学ぶため、使用人に倣って日々様々なことを覚えていた。
その一環として、街に行く用事が出来たのだろう。
そこまではウィリアムにだって理解出来る。
だが、ルイスが一人で街に行く必要性は理解出来なかった。
「ルイス、ロンドンの街は道が入り組んでいて迷いやすいんだよ」
「大丈夫です、道はちゃんと覚えているので」
「たくさんの人で賑わっているからこその危険なことも、無責任な悪意を向けられることだってある」
「分かっています。先生の訓練のおかげで少しのトラブルには対処できますし、悪意を向けられることには慣れています」
「ルイス…」
慣れなくても良いことにまで慣れてしまった弟を思い、ウィリアムは眉を顰めて彼を見る。
この屋敷の人間は兄弟の事情を知っており、ルイス本人が持つ人間性と弟を可愛がる二人の兄のおかげで、目立って悪意を向けてくるような存在はいない。
けれどそれは屋敷の中だけのことで、街へ出たときにはそうもいかないのだ。
幼く可愛らしい顔に痛ましい傷跡を携えたルイスを見て気味悪そうに嘲笑する人間は必ずいる。
それだけでも許し難いことなのに、そもそも小柄で身なりの良い子どもが一人出歩くなど危険極まりない。
ルイス一人でロンドンの街を歩くなど、まるで攫ってくれと言っているようなものだろう。
かつてモリアーティ家にいたときは体のこともあって屋敷の外から出ることはなかったし、この屋敷に住んでからもウィリアムかアルバート、もしくは使用人とともに街へ出ていたというのに、何故ルイス一人で出掛けなければならないのだろうか。
「手違いで昼食に使うチーズがなくなってしまったそうです。兄さんも兄様もあの店のチーズがお好きでしょう?他の皆さんは仕事があるので、手の空いている僕が買いに行こうと思いまして」
「それならルイス、今日の家庭教師の講義は中止にするから僕も一緒に買いに行くよ」
「いけません、兄さん。兄さんは入学に向けてたくさん勉強しなければならないのですから」
講義の一回や二回なくなったところでウィリアムの頭脳には何の影響もない。
だがそれを伝えるには張り切っているルイスの顔が眩しすぎた。
「大丈夫です、僕一人でもお使いくらい出来ます。道は覚えていますし、お店の人とは顔馴染みです」
「ルイス、そうじゃなくて」
「心配ご無用です、兄さん。立派にお使いを果たしてみせます」
「じゃあせめて馬車を呼ぼうか」
「必要ありません。御者の手間を煩わせますし、辻馬車を呼んで待つよりも僕が歩いた方が早いです」
既にルイスはウィリアムとアルバートの役に立てるとやる気に満ちている。
こうなったルイスを止めるのは中々厄介で、心配だと伝えても反発されてしまうのは目に見えていた。
「…気を付けて行ってくるんだよ、ルイス」
「はい!」
断腸の思いで声を掛ければルイスはますますやる気が出たようで、大きな瞳を輝かせては元気に返事をしてくれた。
力強く頷いた影響で乱れた髪の毛が額に掛かっている。
ウィリアムはその細い髪を指で払ってあげてから、ルイスに気付かれないよう心の中で溜め息を吐いた。
「ウィリアム、ルイスの姿は見失っていないね?」
「えぇ、アルバート兄さん。ルイスの勘も鋭くなっているのでこれ以上近付くのは危ないですが、この距離ならまず問題ないでしょう」
「なら良かった。慎重にいかねばならないからな」
「えぇ」
兄達が好んでいるチーズを買うため張り切って屋敷を出て行ったルイスを、ウィリアムとアルバートは快く見送った。
そうして扉の向こうから足音が聞こえなくなるくらいまでの時間を置いてからすぐさま外出の支度を整え、二人の兄は末の弟を尾行している。
ウィリアムの予定は後日の課題提出を条件に見送られ、アルバートの予定は急ぎの用ではないと本人が一蹴したことで却下された。
アルバートのお下がりである外套を身に纏ったルイスの足取りは軽く、一人で出歩く不安よりも二人の役に立てるという充実感に満ちていることがよく分かる。
内向的で一人行動することが苦手なはずのルイスの姿を見て、立派に成長したんだね、とウィリアムはうっかり感動してしまいそうだ。
本当ならもっと近くでその姿を見たいものだが、一人で行くと張り切っていたルイスに見つかってはきっと怒るだろうし、ジャックの訓練のおかげでルイスの察知能力は異様に高くなっている。
この距離が限界だと、ウィリアムとアルバートはじゃがいもほどの大きさに見えるルイスの後ろ姿を追っていた。
「街へは数回しか行ったことがないだろうに、道順はきちんと覚えているようだね」
「迷うことなく辿り着けるようで安心しました。さすがルイスだ」
ロックウェル伯爵家から街への道のりはそう遠くはないが入り組んだ道を通る。
一般市民が住まう居住地との明確な線引きをするため貴族が住まう地域はそういった地理であることが多いのだが、ルイスは間違いなく道を記憶しているらしい。
感心しながらも当然のことだと、ウィリアムとアルバートは浮かんだ笑みを隠すためにハットを深く被り直した。
しばらく歩き、ルイスは外注を依頼している店が多く立ち並ぶロンドンの中心街へとたどり着く。
「あれは…」
「人攫いか?」
「いえ、待ってください」
「しかしウィリアム」
目的の店は街の奥に位置している。
ルイスが脇目もふらず真っ直ぐに前を歩いていると、一人の男がルイスに声をかける様子が目に入った。
昔ならいざ知らず、今のルイスはモリアーティの、つまりは今後のアルバートが背負う名を冠している。
ルイスの行動一つでモリアーティ家の評判が決まることもあるのだから、他人であろうと声をかけられて無視をすることは出来ない。
けれど物腰穏やかな表情を取り繕うことはせず、ルイスは淡々と声をかけてきた男を見上げて幾つかの返答をする。
「良かった、人攫いではなかったか」
「…そうですね、良かった」
男がルイスを見下ろしては爽やかな笑みを返し、恭しく礼をしたところでルイスはその場を去る。
遠目から見る限りはただ道を尋ねていただけのように見えてアルバートはほっと胸を撫で下ろしたが、ウィリアムは静かに男の様子を観察していた。
ルイスの後ろ姿を見る男の表情は確かに歪んでいて、けれどもルイスの後を追うような真似はしていない。
しばらくした後で男はどこかの店に入り姿が見えなくなった。
妙な違和感は気のせいだったかとウィリアムが意識をルイスに戻すと、少しだけ道順に不安を覚えたのか、キョロキョロと周りを見渡す弟がいる。
「ルイス、店は三つ先を左に行ったところにある。早く思い出すんだ」
「そう、そこだよルイス。その角をまっすぐ行った場所が目的の店だ」
たくさんの店が立ち並び、たくさんの人が行き交うロンドン一の中心街。
小柄なルイスはそこで一人、周りに圧倒されながら歩みを止めながらも道を行く。
自信がないのか心細そうに周囲を見渡すルイスに声をかけようとする人はいるが、身なりの良いルイスに声をかけるのはハードルが高いのだろう。
誰もルイスに声をかけることなく、その場を通り去っていく。
けれどそれが一般市民が見せる普通の姿だろうとウィリアムは考えた。
不安げなルイスに心動かされた二人は熱の入った視線でその姿を見守っている。
「そう、その店だルイス!」
「よく見つけたね、偉いよ!」
思わず身を乗り出してルイスの後を尾けていた二人の兄は、知らずのうちに距離が近くなっていたことに気付いていない。
じゃがいもよりも大きな、発育の良いグレープフルーツほどの大きさになっているルイスを見て興奮したように声を出す。
最低限の小声であるのは理性が残っている証拠だろう。
「…どなたかいらっしゃいますか?」
「「……」」
「…気のせいでしょうか」
まだ気配を探るのは上手くいかないものですね、というような空気を出すルイスを否定しては褒め称えたい気持ちでいっぱいだ。
ウィリアムとアルバートは慌てて近くの店に入り、熱の入った気を鎮めるために深く息をした。
我が弟ながら察知能力は十二分過ぎるほどにある。
後を尾けていることに気付かれてはルイスの自尊心を傷付けるし、尾行した理由を知られては怒ってしまう。
何があろうとバレる訳にはいかないと、ウィリアムとアルバートは視線だけで会話をして頷き合った。
「あの、何をお求めでしょう?」
「あぁすまない。たまたま素晴らしい調度品が目に入ったものでね。また今度、改めて挨拶に伺わせていただこう」
「お邪魔しました」
隠れ蓑にした店の主人が恐る恐る声をかけてきたのを丁寧にあしらい、感謝の意を込めて綺麗な笑みを浮かべる。
見ればガラス細工を販売している店のようで、陽の光を浴びて煌めく細工品がとても綺麗だ。
いつか必ずここに足を運ぶと約束をして、アルバートは子どもながらに主人へと紳士然とした態度で接してみせた。
「…無事に買えたようだね」
「えぇ、良かった。チーズは冷蔵品ですし、寄り道せずまっすぐ帰るはずです。このまま何事もなく屋敷に帰って来てくれれば良いのですが」
「そうだね」
ルイスと同じ店に入る訳にもいかず、ウィリアムとアルバートは店の外で帰路にならない方向の道でその姿を待っていた。
ほくほくとした顔で紙袋を抱えて出てきたルイスは見るからに目当ての品を買えて大満足といった表情だ。
思わず二人の顔も綻んでしまうというものだが、まだまだ油断は禁物である。
今のところはルイスに直接罵声を浴びせる人間も囃し立てるように噂話をする人間もいないが、ここはロンドンで最も多くの人間が行き交う街なのだ。
疑いたくはないが、ルイスを傷付ける人間が全くいない状況の方がありえないのだから。
さらに言ってしまえば、ルイスに好意を寄せる人間の存在もウィリアムは許せない。
つまりルイスに関して陰でも陽でも何らかの感情を持っているというだけでウィリアムの琴線に触れてしまう。
身内、特にアルバートならば陽の感情を抱くことを望んではいるが、他の人間がルイスについて考えるなど以ての外だ。
ゆえに、今ウィリアムとアルバートと同じくルイスの後を尾けている男の存在など、許容出来るはずもなかった。
「…ウィリアム」
「えぇ。先程、ルイスに声をかけていた男性ですね」
「明らかにルイスを狙っているように見えるが、やはり人攫いの類か」
「貴族の子ども目当てか、それともルイス個人を狙っているのかは分かりませんが…まぁどうでも良いことですね」
「あぁ、そうだな」
道の向かいにいる見かけた顔にウィリアムの表情は消え、アルバートの顔には嫌悪が浮かぶ。
モリアーティ家ではかつてウィリアムを一人街によこしていた過去はあったが、あれはウィリアムが持つ人当たりの良さとモリアーティ家の表向きの評判の良さがあってのことだ。
今考えれば貴族家の子どもが一人出かけるなど誘拐の危険ばかりなのだから絶対にありえないことだと、アルバートはそう断言出来る。
ルイスに至っては小柄で大人しそうな容姿なのだから間違っても一人で街に行かせるなどしたくはなかったが、当の本人が張り切ってしまっているのだから過保護にするわけにもいかなかったのだ。
それゆえに後を尾けていたのだが、尾行して正解だったとアルバートは眉を顰めた。
目の前には同じく不快そうに瞳を歪ませるウィリアムがおり、少し離れたところには狙いを定める獣のような禍々しいオーラを滲ませる男がいる。
「行きましょうか」
「ルイスはどうする?二手に別れようか」
「この距離以上に近付いてはルイスに勘付かれてしまうでしょう。離れる意味でも距離を取った方が良い」
「それもそうだな。ではこちらをすぐ片付けるとしよう」
誰の気配に気付いたのかしれないが、ルイスがまたも後ろを振り返っては辺りを見渡すように視線を彷徨わせ首を傾げている。
全くルイスが持つ鋭い勘には恐れ入ってしまう。
余計な虫を排除するためにもルイスの足が前に進むのを待ち、同時に男の足が駆けようとする瞬間にウィリアムは音も立てずに彼の前へと出向いていった。
「こんにちは、良い日和ですね」
「あ?あ、あぁそうだな」
「突然失礼します。少々お話を伺いたいのですがよろしいですか?」
ウィリアムに続いてアルバートも堂々たる気品を携え男の前に立ち、次期伯爵家当主というその存在感を全面に押し出した。
身なりが良く大人になりきれていない子どもが二人。
しかもそのどちらもが抜群の容姿なのだから、男の興味はルイスからその兄達へと簡単に移ってしまった。
ルイスから意識を逸らしたのを良いことにウィリアムは二、三の言葉を交わし、アルバートが己の身分を明かした上で適当な理由を付けて男の名前と住まいを確認する。
今ここで始末するといった野蛮なことを、この二人は少しも考えていない。
ルイスを狙っていたこの男の素性を明らかにした上で、余罪があるのであれば然るべき方法で裁くことを検討しているのだ。
まだルイスに手を出してはいないし今後も出すつもりがないのなら見逃すつもりである。
その顔と声と名前をしっかりと記憶し、ルイスがいないことで肩を落とす様子に嫌悪しながら去りゆく姿を見送った。
「何の後ろめたさもない人間なら良いのですが」
「どうだろうね。後ろめたいことのない人間が、ルイスを後ろから付け狙うかな」
「ふふ、その理論だと僕達はどうなるんでしょうか」
「それは禁句だよ、ウィリアム。兄は特別なんだろう?」
「そうですね」
絶対に裏があるだろうと確信しながらも敢えて泳がすその慈悲深さに、アルバートはウィリアムという人間の奥ゆかしさを知る。
最愛の弟が狙われていても証拠を押さえるまで、もしくは確実な悪だと確定出来るまでは手を下さない。
決して私情だけで動こうとはしないその姿は穢れのない神聖なもののようにも見える。
不毛な会話もどこか楽しい。
こんなことすら今までに経験がなかったのだから当然かと、アルバートは鼻を鳴らして小さく笑った。
「さて、すぐにルイスを探さなければならないな。来た道を歩いているはずだから、急いで戻ろう」
「はい」
ルイスが通ったであろう道はたくさんの人で賑わっており、追いかけるには距離がある。
急いで探すにしても鉢合わせてしまっては意味がないし、追い越してしまってもいけない。
ルイスに気付かれない距離を保ったままその後ろ姿を見つけなければならないのだから中々ハードルは高いが、それでも探すしかないとウィリアムとアルバートは意識を集中させて気配を探っていった。
たくさんの雑念が混ざる街中、気配を殺してルイス個人を探すのは難しい。
そうして周囲を見渡しながら耳に届く音を聞き分けていると、ふとざわめいている空間があることに気が付いた。
「アルバート兄さん、あそこ」
「え?」
「あの空間、もしかすると」
妙に色めきだっている原因は婦人達の甲高い声だったらしい。
きゃあきゃあと聞こえてくる黄色い声は可愛いものを愛でているときの女性特有のものである。
しかし色めきだっているというのはやや表現に合っていなかったようだ。
何故なら婦人の誰一人、それに対して恋愛めいた感情は抱いていなかったからである。
「ルイスじゃないか」
「えぇ」
数名の婦人に囲まれているその中心には小さなルイスがいた。
ルイスは戸惑ったように彼女らを見上げており、それでも邪険にすることなく適切に応対している。
周りの会話から察するに、ルイスは彼女らが落としたものを拾う手伝いをしたらしい。
たくさんのフルーツが転がって痛んでしまうよりも前に拾い上げてくれたルイスに感謝していると同時に、幼くも礼儀正しいルイスを可愛がっているのだろう。
まぁ良い子ね、どこのお家の子かしら、本当にありがとう、と続け様にかけられる言葉と悪意のない笑顔を向けられ、ルイスは照れたような、けれども困ったような表情を浮かべている。
何とも和むその光景に癒されつつも、ルイスの心情を思うと助けてあげなければという責任感に駆られてくる。
しかし実際は助けることが出来ないのだからもどかしい限りだ。
ウィリアムとアルバートはどうしたものかと複雑な表情を浮かべ、離れた位置で困っている弟の姿を見守っている。
「見失っても発見に容易いというのは良いことだが」
「ルイスは目立つのが得意ではないので、溜まったものではないでしょうね」
ルイスは可愛いから仕方のないことではありますが、と真顔で言い切るウィリアムにアルバートは同意するように頷いた。
そしてルイスだけでなくウィリアムもだろうなとアルバートは考え、ルイスだけでなくアルバートもそうだろうとウィリアムは考える。
三者三様、それぞれ話題の中心にいても不思議ではないほどの魅力の持ち主なのだから当然の結果だ。
それに加えてルイスは人見知りが災いして上手くあしらえない現実が露呈してしまったのだから社交会デビュー含め公の場に出すのは要注意だと、ルイスがいない場で兄達は確信してしまった。
(ただいま戻りました)
(お帰り、ルイス)
(遅かったね、変わったことはなかったかい?)
(…はい。少し予想外のことが起きただけで)
(へぇ、どんな?)
(いえ、大したことではありません。店を出た後、付いてくる人がいた気がしたのですが気のせいでした)
(そう、気のせいで良かったね)
(はい。いざとなったら返り討ちにしようと思っていたのですが杞憂でした)
(ふふ、ルイスが無事で何よりだよ)
(チーズ、ちゃんと買ってこられました。今から準備するので、一緒にお昼ご飯にしましょう)
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