刻み込め、その覚悟
一人イートン校に通うルイスが休暇で屋敷に帰ってきたときの三兄弟。
学びたいという意欲と兄さん兄様と一緒にいたいという気持ちを両立出来ない未熟な末っ子、かわよ!
ウィリアムが飛び級制度を活用して大学へと通い、アルバートが首席を維持したまま定例通りに卒業して同じく大学へと通っている最中、ルイスは一人イートン校で学びを深めていた。
元々学生になるつもりのなかったルイスをイートン校に入学するよう説得したのは二人の兄どちらもだ。
ルイスは二人がイートン校に通う間もロックウェル家に残り、執務や領地の管理について学ぶつもりだったけれど、ルイスの知識と世界を少しでも広げられるようにとウィリアムが通うことを望んだのだ。
無論アルバートもその意見に賛同し、乗り気でないルイスを「僕達と一緒に学園でたくさんのことを学ぼう」と誘っては丸め込んだのである。
けれどルイスはそれが大層不満で仕方がなかった。
今後について考えた上で二人の役に立つことを学べるのならと入学を決意し、少なくとも一つ上のウィリアムとは長く一緒に学園生活を送れると思っていたのに、兄の優秀さは群を抜いていたためになんとアルバートよりも早く卒業してしまったのだ。
ウィリアムの優れた頭脳を生かせるのであればそれがベストだと分かってはいてもやはり寂しい。
落ち込んだけれどそれでもアルバートとの学園生活を楽しんでいたはずなのに、そのアルバートもあっという間に卒業してしまった。
ゆえにルイスは二人と過ごす時間よりも圧倒的に長い時間をイートン校で一人過ごしている。
嫌がらせをしてくる同級は減ったけれど特別親しい友を作るつもりもなく、そもそも多くの同級から避けられては遠巻きにされているし、色恋めいたことに誘われるのも鬱陶しい。
そんな中で二人のためにと懸命に勉学に励んでいたところの長期休暇、ルイスはようやく兄達が暮らすモリアーティ邸に帰ってくることが出来た。
「僕は今から記憶喪失になります」
やっと会えたウィリアムとアルバートはやはり愛おしくて、ルイスはようやく会えた喜びで胸がいっぱいになる。
歓喜のあまり足元が浮つく感覚がして、かろうじて地面を踏みしめて二人の腕の中に飛び込んだのがつい昨日のことだ。
まだまだ小柄で華奢なルイスの体をウィリアムもアルバートも難なく受け止めてくれた。
そうして三人抱き合い、離れていた時間を堪能すべく一晩中語り合って少しだけ眠ろうと瞳を閉じたのが今朝のことだ。
興奮のあまり早くに目が覚めてしまったルイスは同じベッドの右で眠っているウィリアムと左で眠っているアルバートの顔を見て、じわじわと全身を歓喜で震わせる。
何度も夢見ていた生活を送っていることが嬉しくて仕方がない。
本当ならこんな日々をもう送っていたはずなのに、どうして今自分は一人イートン校に通って馴染めない同級との時間を過ごさなければならないのだろうか。
二人が起きるまでじっとその寝顔を見ていたルイスは納得がいかないと、そう感じて心の中に存在していたわだかまりをそっと掬い出す。
そして目が覚めたウィリアムとアルバートがちゃんと覚醒したのをきっかけに、お遊びめいた戯れを実行することにしたのである。
「ルイス、どうしたんだい?」
「僕は今から記憶喪失になります」
「ルイス?」
起きて早々に弟の謎発言を聞いたが、咀嚼しようにもあまりにも脈絡がなくて目を見開くことしか出来ない。
ウィリアムは優れた頭脳を持て余し、アルバートも驚いたように呆気に取られていた。
「…そう、記憶喪失か。それは大変だ」
「ルイスは一体何を忘れてしまったというんだい?」
立ち直ったのはウィリアムが早かった。
続いてアルバートもすぐに持ち直し、可愛い末っ子が見せた謎の反抗期を宥めるべく話を合わせていく。
久々に会うのだから甘えているか拗ねているかのどちらかなのだろう。
ならばルイスの気が済むまで構ってあげるのが兄として正しい行動に違いない。
ムッとしたように綺麗な赤を半分しか覗かせずにジト目になっているルイスの髪を梳き、隠れている額と右頬を露わにした。
小さな顔にバランス良くそれぞれのパーツが収まっていて、ぶすくれた顔をしていてもとても可愛らしい。
「全部です。もう全部忘れてしまいました。僕はルイスという名前なのですか?」
「そうだよ、君の名前はルイスだ。綺麗な響きだろう?」
「戦いを意味する単語に綺麗も何もありません」
「ふふ。僕にとってはどんな宝石よりも美しい輝きを秘めた名前だよ。ねぇ、ルイス」
「私もそう思っているよ。ルイスとはこの世に存在する何よりも綺麗で気高い名前だ。呼んでいて心地良い」
歯の浮くような白々しい口説き文句も、ウィリアムとアルバートが言えば見事なほどに格式高くなってしまうらしい。
元よりルイスは二人の言葉に疑いを持たない性質のため、歯の浮くような、という嫌味すらも感じていないのだけれど。
「…ルイスという名前が良い名前なのは分かりました。僕には過ぎた名前なのでしょう」
「まさか。これほど君に相応しい名前は他に存在しないよ、ルイス」
「あぁ。君は誉高い戦いを乗り切るだけの強い精神力がある。美しい響きと相まってこれ以上ないほど君に似合っているよ」
「……もう、わかりました。それ以上言わなくて良いです」
からかうでもない本心からの言葉を疑われて心外だとばかりに、ウィリアムとアルバートが言葉を付け足していく。
ルイスは己の名前にこだわりなどないけれど、ウィリアムが本当の名前を捨ててしまって以降は慈しむように自分の名前を呼んでくれるようになった。
まるでルイスは自分の名前を捨てないようにと、最後まで大切にしてほしい、大切にしようというような、そんな願いを込められているかのごとく優しい音を乗せた呼び名。
ルイスはウィリアムから呼ばれる自分の名前がだいすきだった。
そして、アルバートに名前を呼ばれることもだいすきだ。
彼は初めて自分をウィリアムの弟ではなくルイスとして見てくれた人で、彼の家族になってから呼ばれる声の響きは拾われたときと比べると随分と優しくなったのをよく覚えている。
あんなにも険しい顔をしていた人が穏やかな顔で自分を弟として認めてくれたのだから、ルイスにとってはそれこそ誉高いことだった。
そんなことを考えているとどうにも嬉しさ以上に照れ臭くなってしまう。
ぽぽぽ、と染まった頬に手を当てたルイスは二人から視線を外して何もない真正面を見る。
「それで、僕の名前を褒めてくださるお二人は誰なのですか?」
「僕はウィリアム・ジェームズ・モリアーティ。君の兄さんだよ」
「私はアルバート・ジェームズ・モリアーティ。お前とウィリアムの兄だ」
「僕はお二人の弟なのですか?」
「そうだよ。君は僕の大事な弟だ。他の何より大切で愛おしい、たった一人の弟だよ」
「私にとってもルイスは何者にも代えがたい唯一の存在だ」
左右から聞こえてくる声は至極優しくて、本当に大切にされているのだと実感出来る音だった。
別に疑っていたわけではないけれど、改めてそう伝えられるとやはり嬉しく思う。
小さなルイスにとってはウィリアムとアルバートだけが己の世界であり、他の何よりも彼ら二人を大切にしている。
だから同じように大切に思われているというのはルイスの自尊心をこの上なく高めてくれるし、揺らぎやすい精神を土台から支えてくれるような気さえするのだ。
二人の言葉で一昨日までずっと感じていた寂しさがどこかへ行ってしまったようで、けれども、同じくらいにふつふつと納得いかない気持ちが湧き上がってくる。
ルイスは大切な二人とずっと一緒にいたいのに、ウィリアムとアルバートはそうではないのだろうか。
どうしていつまでもルイス一人をイートン校に追いやっているのだろうか。
本当は学校なんて早く辞めて、この屋敷で二人を思いながら生きていきたいのに。
「…お二人は僕のことが大切なんですか?」
「あぁ。君のためならこの国を作り替えてしまおうとするくらい、ルイスのことがだいすきだよ」
「ルイスが生きる上で不要な存在は私とウィリアムで全て排除してあげよう」
にっこりと笑いながら言う言葉は真実そのもので、歪み切った大英帝国を元通りの美しい国にした暁にはそこにルイスを住まわせるのがウィリアムの野望だ。
イートン校に在籍していた頃もルイスに危害を加える可能性がある者は影からでも表からでも釘を刺してきたし、余計な色目を使おうものなら徹底的にその精神を脅かしてきた。
卒業した今でも二人の息がかかった教員が逐一ルイスの交友関係を探っており、ルイスは認めずともウィリアムとアルバートが唯一認めたルイスの友人と言える存在にも協力を仰いでいるからこそ、イートン校に一人ルイスを置いていけるのだ。
そうでなければ、ウィリアムとアルバート双方の精神安定目的にとっととルイスを連れ戻している。
当のルイスは兄達の暗躍になど気付いてはいないだろうけれど。
「…じゃあどうして、一緒にいてくれないんですか?」
ウィリアムとアルバートの言葉に違和感を抱かず、決して大袈裟だとも思わず、それくらい大切にしていることの比喩だと認識したルイスがむすくれたように唸り声を出した。
そんなに大切だと言うくらいなら一緒にいてくれても良いじゃないか。
一緒の学園生活を送ろうと唆したくせに早々にいなくなってしまって、おかげでルイスは一人ぼっちで気の休まらない日々を送っているというのに。
恨みがましく唸るルイスを見て、記憶喪失設定があやふやなものになってきたことを指摘する兄はいない。
むしろルイスの本心はここにあるのだと、ウィリアムはようやく理解した。
「そうだね、僕もずっとルイスと一緒にいたいよ」
「じゃあ、」
「でもね、僕は君が望んでいることを最大限叶えてあげたいんだ」
「僕は、僕が望んでいるのは」
そこまで言ってようやく記憶喪失という設定が崩れてしまうことに気付いたらしく、ルイスは慌てて口を閉じた。
けれど言いたいことは伝わったようで、アルバートが気を落ち着かせるように背中を撫ででから抱き寄せてくれる。
抵抗することなく大きく温かい腕の中に身を寄せれば痛くない程度に抱きしめられた。
そうしてルイスはアルバートの腕の中、ウィリアムの言葉を聞くため下がった眉のまま彼を見る。
「僕がたくさんのことを学びたいと思っているように、ルイスもたくさんのことを学びたいと思っていることを僕は知っている。昔のように全て僕が教えてあげられたらそれが一番だけど、それだけではルイス自身の学びたいという意欲は満たされないだろう?自分で探して、自分で学んで、自分で答えを見つけたいという気持ちは、僕では解決してあげられない」
「そんな、こと」
「勿論、大切なことは今まで通り僕が教えてあげるよ。でもその他の、ルイスが興味を持ったことはルイス自ら学んでいってほしいんだ」
「……」
側から見れば聞き分けのない子どもを親が必死に言い聞かせているように見えるのだろう。
けれどウィリアムは頭ごなしに言い聞かせているのではなく、ルイスがどうしたいのかを踏まえた上で話している。
ルイス自身が気付かないふりをしている学びたいという意欲を、ウィリアムはルイス以上に理解していた。
「ルイスは賢い子だろう?たくさんのことを学びたいと思うのは当然のことだよ。学ぶ機会があるのに学ばない選択をするなんてルイスらしくない」
「でも、僕は」
「僕もルイスと一緒にいたい気持ちと数学を極めたい気持ちの両方を持っている。そのどちらも叶えるためには、今だけ離れて過ごすことが必要なんだ」
「…どっちも叶えなくても、一緒にいられる方だけを選んだって良いのに」
「ふふ、ルイスらしくないね。僕が知っている君は、僕が教えたことをちゃんと学んでいた勤勉な子だったのに」
「今の僕は記憶喪失です。そんなこと、覚えてません」
ぷい、とウィリアムから顔を背けてアルバートの胸に顔を埋めたルイスは後ろめたそうに俯いた。
決してイートン校に通うことが嫌なわけではない。
ウィリアムが言うように今の英国では学ぶということはとても貴重なことで、かつてのルイスは色々なことを知りたいと思ってもその機会に恵まれなかったのだから、無事に学生で居られる今がどれほど貴重な時間かをよくよく理解している。
目を背けているけれど、勉強に限らず日々たくさんのことを知識として吸収している現状を嫌っているわけではないし、同級と馴染めないことを気にしているわけでもない。
ただ、ルイスにとっては学びたいという欲よりもウィリアムとアルバートと一緒にいたいという欲の方が大きいだけだ。
どっちも手に入れるために今は我慢するだなんて利口なこと、ルイスには我慢出来なかった。
「僕はね、ルイス。君に後悔してほしくないんだ。今イートン校で学ばなければこの先きっと学生になる機会はない。あったとしても、君は絶対に選ばない。もしこの先ルイスが何かを学びたいと思ったとき、それは足枷になってしまうだろう?だから今離れたとしてもお互いにちゃんと学んで、それから先の未来では君とずっと一緒にいたいんだ」
「…僕は、今も一緒にいたいのに」
「ルイスが本当にそれを望むなら良いよ」
「え?」
駄々をこねている自覚はある。
ウィリアムの言い分はルイスにも納得がいくものだし、イートン校で学ぶことは二人のため以上に自分のためになることも理解している。
それでも一緒にいたいのだと、ぐずるように言ってみれば思いもよらない言葉が返ってきた。
顔を上げてウィリアムの顔を見れば寂しそうに笑っていて、つられて胸が軋むような感覚がする。
「ルイスが自分と僕とアルバート兄さんのための学びを捨ててしまうことに納得出来るのなら、学校を辞めてここに帰ってきても良いよ」
「そうだな…ルイスが悩んだ末にそれを選ぶのなら、私もルイスの意思を尊重しよう」
ルイスが後悔しない生き方を選ぶのならそれが良いと、ウィリアムは哀しそうな瞳でルイスを見ている。
抱きしめられた腕に力がこもっているから、きっとアルバートも似たような瞳をしてルイスを想っているのだろう。
色々なことを教える中でたくさんのことを知っていくルイスを誰より喜んでいたのはウィリアムだった。
ルイスがいたからこそ教えることの素晴らしさを実感し、計画を進める上での表向きの職務には教育者を視野に入れている。
アルバートとて、学ぶ機会のなかったルイスの見解を広げるためにイートン校入学への手続きをしたのだから、最後まできちんと全うしてほしい気持ちがある。
それがルイスにとって絶対にプラスになるという確信もあった。
途中でのリタイヤなど美しくはないけれど、それだけつらいのであれば初めての弟が望むことは叶えてあげたいと思う気持ちがあるのも事実だ。
「……」
ルイスが後悔しないのであれば、ウィリアムもアルバートもルイスの希望を汲んでくれるという。
このままルイスが頷けば、もう今月末に一人で寮へ戻ることもしなくて済む。
この上なく甘い誘惑に思わず喉が鳴るけれど、ウィリアムとアルバートの気持ちに気付かないふりをしたまま頷くことなど出来はしない。
自分が学ぶことを心から喜んでいる二人を知っているのに、それを無碍にするなどルイスには出来ないのだ。
「…辞めません」
ここで我が身可愛さにイートン校を辞めてしまっては絶対に後悔する。
ウィリアムとアルバートのために入学したのに、それを途中で投げ出してしまうなんて二人の弟として許されるはずがない。
寂しいだなんて一時の感情より、ルイスには何より優先したいことがあるのだから。
いきなり一人になってしまった戸惑いで基本的なことを忘れていたと、ルイスはウィリアムとアルバートから教え諭されようやく思い出した。
「……絶対に、辞めません。お二人がいなくても、僕は絶対に兄さんと兄様のために少しでも多くのことを学んで、これから先に活かしてみせる。つらかろうが弱音が出ようが、お二人のためなら僕は耐えてみせる」
そんな当たり前のことも分からなくなっていたなんて二人の弟として失格だと、ルイスは自らの両頬にパンと両手を当てて気を引き締める。
ウィリアムはルイスの学びたいという意欲を汲んでくれたし、アルバートはその機会をこれ以上ない方法で与えてくれた。
ここで辞めてしまえば絶対に後悔するし、自分を信じて送り出してくれたウィリアムとアルバートにも申し訳が立たない。
ルイスがそう決意を込めた瞳で兄を見れば、寂しそうな瞳の中に安堵した色が浮かんできた。
「さすがルイスだ。記憶喪失でも僕の自慢の弟だね」
「何も覚えていない中でもきちんと選択出来る心の強さは生来のものなんだろう。偉いな、ルイスは」
ルイスの返答を順に褒めては抱きしめてくれるウィリアムとアルバートの温もりに頬が緩む。
なんとなく拗ねた心のまま記憶喪失なんて嘯いてしまったけれど、おかげでめそめそしていた過去の自分がどこかへ行ってしまったらしい。
一人であろうとなんだろうと、イートン校に通うのはルイス個人ではなくモリアーティ家の子息かつウィリアムとアルバートの弟なのだ。
その名に恥じぬ覚悟を持っていなければならないと、ルイスは兄譲りの芯の強さを瞳に宿す。
「ちゃんと学校は卒業します。そうしたら心置きなくこの場所で二人を待つことが出来る。兄さんと兄様に恥じない僕で在るためにも、あと少しだけあの場所で頑張ってきます」
「応援しているよ、ルイス」
「たくさん手紙を書こう。私もウィリアムも、いつだってルイスを応援している」
「ありがとうございます」
ルイスの覚悟を受け止めた兄達は誇らしく弟を見る。
儚そうな見た目に反して強い子なのだ。
きっと大丈夫だろうという確信があった。
ウィリアムとアルバートがそんなことを考えているとは知らないまま、ルイスは静かに息を吐く。
一人で頑張るのもあと数年のことだ。
それを乗り越えれば三人一緒に過ごせるのだから悲観することなどない。
ルイスはそう意識を変えたけれど、今だけは少しくらい甘えても良いだろうと、抱きしめてくれている二人の背に腕を回して機嫌良さそうに口を開いた。
「僕は今、記憶喪失なんです」
「それは大変だ。早く思い出してもらわないと寂しいな」
「まずは何を知りたい?何でも教えてあげよう」
「ウィリアムさんとアルバートさんのことを知りたいです。お二人はどんな兄さんなのですか?僕はどんな弟でしたか?仲の良い兄弟だったんでしょうか?」
「ふふ、知りたいことがいっぱいあるんだね。じゃあひとつずつ教えてあげようか」
「私とウィリアムがどんな兄なのかはルイスが一番よく知っていたからな…自己紹介というのも気恥ずかしいが、ルイスの記憶を取り戻すためならいくらでも教えてあげなければならないな」
高く日が昇っている時間なのに未だベッドから出ることもせず、食事も取らないまま、三兄弟はゆったりと時間をともに過ごしていく。
心許せる限られた時間を無駄にしないよう、ルイスはウィリアムとアルバートの腕を抱いて抑えきれない緩んだ頬を見せていた。
(ルイスはね、とっても兄思いで賢い良い子なんだよ。たまにびっくりするような大胆な行動を取るから少しも目が離せないけど、それが少しも苦にならないくらいに可愛い子なんだ。教えたことはすぐに覚えてしまうし、僕と兄さんのためにいつも一生懸命なところがとても愛おしい。僕はルイスのためなら何でもしてあげたいんだ。今は離れて暮らしているけれど、また一緒に暮らせるようになったら片時も離したくないくらい大切な人なんだよ)
(…あの、もうそのくらいで良いです)
(え、もう?まだ抽象的にしか語ってないのに)
(では私の番だな。ルイスがどんな人間かを一言で語るのは難しいが、私はルイスのおかげで兄としての自覚が芽生えたと思っている。あの子は生粋の弟気質で、警戒心が強いくせに慣れてしまえば無邪気に慕ってくれるから、自然と兄とはどういうものなのかを知ることが出来た。弟とはこんなに可愛いものなのだとルイスが私に教えてくれたよ。私のために懸命になってくれるところがとても愛おしいと思うし、ウィリアムと仲睦まじい姿は二人揃って私の癒しになっている)
(も、もう良いです!僕のことはもう良いので!)
(まだ教え足りないのに)
(これではルイスがどんな人間か分からないままだろうに)
(十分分かりました!もう大丈夫です!)
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