一年ずっと、いつでも食べ頃
現パロいちゃらぶウィルイス。
一緒にアイスを食べる甘くて何気ない日常の積み重ねがウィルイスの礎を築いていくのである。
昔から、ウィリアムの記憶の残る幼い子どもだった頃からずっとずっと、ルイスの頬は変わらずに白くてまろくて柔らかい。
見た目通りきめ細やかな肌は少しのくすみもなく滑らかだった。
生まれたときから右頬には爛れたような痣があったけれど、それでも触り心地は左と変わらず心地良い。
哀れな見た目だけで弟を毛嫌いする愚かな人間には教えてやらないし、かといって、彼に特別で好意的な感情を抱く不埒な輩にはますます持って教えてやるつもりはない。
可愛い弟の頬が魅力的なことを知るのは自分と、あともう一人の兄だけで良いのだから。
他の人間は知らないことを悔やめば良いし、そうでないのなら指を咥えて見ていれば良い。
「ルイス」
「はい?…ん、んん」
「…ふふ」
昔から変わらない滑らかでふわふわした、けれどそれでいてもっちりしたような感触の頬に両手を添えて優しく揉み込む。
弾力のある頬に触れると吸い付くような感触が心地良い。
くすぐったそうに微笑うルイスの表情もウィリアムにとって心からの癒しだった。
「くすぐったいですよ、兄さん」
「ふふ」
「離してください、兄さん」
「えー、どうしようかな」
「もう、兄さんてば」
ふわふわもちもちのまろい頬をマッサージするように撫でていると、喉から囀るような声が聞こえてきた。
本気で嫌がっている素振りはない。
そもそもルイスがウィリアムのすることを嫌がったことは一度もないし、何をされても受け入れるだろうことをウィリアムは知っている。
日頃は意識して凛とした表情を見せているルイスなのに、ウィリアムの前では余所行き用に作られた表情がすぐさまとろけてしまうのだ。
ルイスが見せる無意識の表情変化は、彼がウィリアムに寄せた全幅の信頼の証なのだろう。
愛おしい気持ちと同じくらいに、言い知れないほどの優越感が全身を駆け巡っていく。
自分のものなのだと実感できるその気質がウィリアムをどれだけ喜ばせているか、きっとルイスが知る日は来ない。
ウィリアムは口先だけの抵抗を抱き締めることで封じ込み、揉み込まれてうっすら染まったルイスの頬に唇を寄せる。
触れるのが駄目というのならば、唇で慈しむキスくらいは許されても良いはずだ。
「ん、ふへ」
ウィリアムが甘ったるく微笑うルイスの頬に何度も吸い付いていると、漏れ出た吐息のような声が耳に届く。
飾らない表情と声が何よりの癒しだ。
ちゅ、と菓子のように柔らかな頬にもう一度キスをして、可愛いなぁという気持ちのままに細い体を抱き締める。
くすぐったいのか心地良いのか、それともその両方なのか、ルイスは瞼を閉じて口角を上げては笑っていた。
淡い色をした長いまつ毛が影としてその頬に乗っている。
真っ白くまろい、そしてふわふわもちもちのルイスの頬。
見ているとどうしてだか食欲を刺激されてしまう。
「…ねぇルイス。一緒にアイスを食べようか」
「アイス?」
「雪見だいふく。一緒に食べよう」
「はい」
ルイスの頬とよく似ている冬定番のお餅のアイス。
それはこの時期になるとモリアーティ家の冷蔵庫には必ず複数常備されていた。
買い溜めるのは勿論ウィリアムで、「よほど雪見だいふくがすきなのだな」と兄を思うルイスもそれを見かければ買って帰ることが多い。
二人で一緒に食べるのに丁度いい数とサイズなのも好ましかった。
「兄さんは本当にこのアイスがすきですね」
そうだよ、と反射的に返事をしながらも視線はルイスに向かっている。
冷凍庫から目当てのアイスを取り出したウィリアムはお茶の用意をしているルイスの手元を後ろから覗き込んでいた。
アイスだけでは冷えてしまうし口の中が甘ったるくなってしまうと、ルイスは必ずお茶の用意をしてくれるのだ。
普段は紅茶が多いけれど、今日はアイスに合わせてほうじ茶を淹れているらしい。
嗅ぎ慣れないのに何故か気分が温かくなるその香りは紅茶党のウィリアムも気に入っている。
味だけでなく蒸らし時間が少ないのも気に入っているポイントの一つで、今もルイスの背後でまだかまだかと言わんばかりにそわそわしていた。
そんな兄の気配に気付いておきながらもルイスはきっちり時間を守ってお茶を抽出し、用意を整えてからウィリアムを背負ってリビングへと向かっていった。
「さぁ食べましょうか」
「ん、そうだね」
テーブルにカップを置いたルイスに倣い、ウィリアムもアイスのトレイを置いていく。
そうして二人並んでソファに座り、ルイスがアイスの蓋を開けてみれば、そこには真っ白くまろいお餅のアイスが二つ入っていた。
どうぞ、とルイスが容器を両手に持ってウィリアムに差し出してみるけれど、彼には手をつける気配がない。
ルイスがじっとウィリアムを見上げても兄の表情はにこにこと笑顔を浮かべるだけで、その手はアイスではなくルイスの頬に寄っていく。
「…兄さん、アイスですよ」
「うん」
「……」
ウィリアムがこのアイスを好んでいることはとうに知っているし、大抵一緒に食べている。
けれど何故だか、すぐにはアイスを食べようとしないのだ。
お茶の用意をする間にはあれほどそわそわしていたのに、いざ食べても良いとなるとこうして手を止めてしまう。
いつもそうなのだから今日もそうなのだろうと察しはついていた。
冷凍庫から出したばかりでも食べるには丁度良い硬さであるのにどうしてだろうかと、ルイスは手元の真っ白くまろいお餅のアイスを見下ろした。
今日も今日とてこのお餅のアイスは一定の時間が経つまで放置されてしまうのだ。
出してすぐの方が食べやすくて美味しいだろうに何故だろう。
「…兄さん、アイス、溶けてしまいますよ?」
「まだ大丈夫だよ。食べ頃には早いから」
「食べ頃?」
「あぁルイス、食べたいなら先に食べても良いよ」
手の上で段々と溶けていってしまうだろうアイスを懸念して声をかけるが、ウィリアムは気にせずルイスの頬に触れては揉んでいく。
触り心地の良い頬はそれこそお餅のように滑らかでとても美味しそうだと思う。
実際に食べられるのなら、この頬はさぞかし上質な甘さを口に届けてくれるのだろう。
ウィリアムがそんなことを考えているとはつゆ知らず、ルイスは容器に付属されていた楊枝を手に取り向かって右側のアイスをいじっていく。
程よく楊枝が刺さるこの硬さは食べ頃ではないのだろうかと、首を傾げながらウィリアムを見た。
「食べ頃だと思います、けど」
「どれどれ」
「兄さん、それはアイスじゃなくて僕のほっぺです」
弟の声をきっかけにアイスに指を押し当てたかと思えば続けてルイスの頬へ指を伸ばす。
先ほどと変わらず揉まれるように触られて嫌なわけではないけれど、アイスの食べ頃を聞いているというのに何故頬をいじられるのだろう。
ウィリアムは疑問を浮かべたルイスに構うことなく弾力のある頬を二度三度と押していき、その後でもう一度アイスに指で触れていく。
そうして納得して合格を出すかのように大きく頷いた。
「ルイス、良いことを教えてあげる」
「良いこと?」
「雪見だいふくの食べ頃はね、ルイスのほっぺたと同じくらいの柔らかさになったときなんだよ」
「は…」
「丁度今、君のほっぺたと同じくらいの柔らかさだよ。美味しい食べ頃だ」
ルイスの手から楊枝を奪い取り、それでアイスを突き刺してからもっちり口に含んで食べていく。
ちょどよく中のアイスが溶けかけていて、ふわふわもちもち、何より甘い。
美味しいものは美味しいタイミングで食べるのがベストだし、それが食べ物に対する礼儀だろう。
先にアイスを食べてしまったウィリアムはせっかくの食べ頃を逃しては勿体無いと、固まってしまっているルイスの口元にアイスを持っていっては「あーん」と囁きかけた。
(ね、美味しいだろう?)
(…美味しいです、けど)
(ふふ、ルイスのほっぺたは雪見だいふくそっくりだね)
(マシュマロとかすあまとか、兄さんは僕のほっぺをお菓子に例えてばかりですね)
(柔らかくて甘くて美味しそうだからかな。本当、食べてしまいたいくらいだよ)
(…食べても美味しくないと思いますよ)
(そんなことないさ。そんなに言うなら、試しに食べてみても良いかい?)
(え?)
(きっと君も今が食べ頃だと思うんだ。…ねぇ、ルイス?)
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