イヌネコぬいは子分が可愛い
転生現パロ年の差三兄弟で、べびルくんのお友達のイヌネコぬい視点のお話。
イヌネコぬいはべびルくんのことを子分だと思ってるけど、大事に可愛く思っていてほしいな。
僕は猫である。
つぶらな瞳がチャーミングな、可愛い可愛い白猫である。
この大きい巣に住んでいる、そこそこ大きな体をしているアルバートという人間が僕を作ってくれた。
痛くはなかったけれど、僕の体の色んなところをたくさんちくちくされてから、僕は生まれたのだ。
気付いたら僕はアルバートに抱っこされていて、アルバートは僕を見ながら「立派な可愛い犬だ」と言ったから、僕は自分を犬だと思っていた。
でも、アルバートよりももっともっと小さな人間のところに行ったら、そいつは僕のことを「にゃあにゃ」と呼んで、どうしてかアルバートも僕のことを猫だと言ったから、つまり僕は猫なのである。
「ねこさん、きょうはなにしてあそびましょうか」
僕の耳を掴んでブンブン振り回しているこいつの名前はルイスである。
この巣に住んでいる人間の中で一番小さな人間の子どもで、アルバートでさえも勘違いしていた僕の正体を猫だと見抜いた、中々見る目のある人間だ。
初めて会ったときは立つことも喋ることも出来なかったのに、今は一人で歩いて上手におしゃべりするまでになった。
そんなルイスは僕を友達だと思っているが、それは間違いだ。
僕はルイスの親分なのである。
「ねこさん、おえかきしましょう」
気の済むまま僕をブンブンしたルイスは、ルイス専用の小さい机と小さい椅子のところに行って、僕の体より大きな白い紙の束を取った。
スケッチブックというらしい。
一緒にクレヨンという色鉛筆を取って、ルイスは僕を机の真ん中に置いた。
ルイスは僕を連れて歩くとき、いつも僕の耳を持つ習性がある。
痛くはないけど耳が取れそうだから、この持ち方はあんまりすきじゃない。
抱っこして歩いてくれれば良いのに、どうやらルイスの小さな手には僕の小さな耳が持ちやすいらしいのだ。
ルイスが僕の子分じゃなかったら、とっくに噛みついて追っ払っているところだ。
でも僕はルイスの親分だから、甘んじて我慢してやっているのである。
そんなルイスは僕の顔を見ながら、大きな紙にぐりぐりとクレヨンを走らせていた。
「ねこさん、にいさんのおめめのいろ、しってますか?あかいんですよ」
ルイスはそう言って、赤いクレヨンでくるくる丸を描いている。
兄さんとはルイスよりもちょっとだけ大きい人間の子どもで、名前をウィリアムという。
ルイスはそのウィリアムがだいすきなのだ。
ウィリアムはルイスと同じような肌と髪と目の色をしていて、よく似た顔をしているから、大きさで見分けないとそっくり同じに見えてしまう。
でもウィリアムはルイスにブンブンされた僕の耳が千切れそうになったとき、こっそりちくちくして直してくれた良い奴なのだ。
ルイスがウィリアムのことをすきなのも納得の、心の優しい人間である。
「あと、にいさまのおめめはみどりなんですよ」
ルイスはふんふんと鼻で歌いながら、今度は緑のクレヨンでくるくる丸を描いている。
兄様とはルイスよりもウィリアムよりも大きな、でもたまに見かけるしわしわの大人よりも若い、大人みたいな子どもをしているアルバートのことだ。
ルイスはウィリアムと同じくらい、アルバートのこともだいすきだ。
アルバートは立派な猫たる僕のことを犬だと勘違いしていたうっかり屋でもある。
そしてルイスがもっと小さかった頃に僕のことを食べようとしたとき、僕の耳を拭いてくれたのがこいつだ。
ルイスは自分から僕の耳を食べたのに、「おいちくない」と言ってはぺッと吐き出した。
そんな僕の耳をハンカチで優しく拭いてくれたから、アルバートも優しい人間なのである。
「にいさんのおめめは〜あか〜にいさまのおめめは〜みどり〜」
ルイスは調子の外れた謎の歌を機嫌良く歌っている。
ルイスがウィリアムとアルバートをだいすきなのと同じくらい、ウィリアムとアルバートもルイスのことがだいすきだ。
いつもルイスのことを抱っこして色んなお話をしたり、おもちゃやボールでたくさん遊んでいる。
でもあいつらは明るい時間はいつもルイスを置いて勉強をしにどこかへ行くから、ルイスはいつもひとりぼっちになってしまう。
全くけしからん奴らである。
だから僕は、ルイスをひとりぼっちにしないようずっと隣にいてやるのだ。
僕はルイスの親分だから、ルイスをひとりにはしないのである。
「ねこさんのおめめは〜…ちいちゃいですね…くろ?」
クレヨンを持った手とは反対の手が、僕のチャーミングな瞳を撫でてくる。
ちいちゃいのではない、チャーミングなのだ。
でもルイスはまだ子どもだから難しい言葉は分からない。
だから僕は仕方なく、ちいちゃいおめめで許してやるのだ。
「ねこさんのおめめは〜くろ〜」
ルイスは黒いクレヨンを上からトンと紙に当てて、僕のチャーミングな瞳を描いていた。
紙には僕とウィリアムとアルバートが描かれていて、これはルイスのすきなものを描いた絵だということが分かる。
ルイスはウィリアムとアルバートと同じくらい、僕のことがだいすきなのだ。
親分たるもの、子分に好かれるのは良い気分である。
まだ子どもなのに、ルイスは中々上手な絵を描く。
親分としては鼻が高いというものだ。
だがこの絵には、まだ足りないものがある。
僕は動かしづらい体をなんとか頑張って動かして、ころんとルイスの前に転がった。
「ねこさん?」
転んだ先の手には赤いクレヨンがある。
ついでに手を、えいやっと動かして、そのクレヨンをルイスの方に転がした。
「あかいクレヨン…」
赤いクレヨンはウィリアムの目の色でもあるが、こいつはルイスとそっくりなのだ。
だから、赤はルイスの目の色でもある。
僕とウィリアムとアルバートが描かれた絵には、絶対的にルイスが足りない。
だって僕はルイスがいなければ、こいつらと関わることなんかないのだ。
アルバートは僕を作ってくれた恩人だけど、ウィリアムは僕を直してくれる恩人だけど、でもルイスがいなきゃ僕はこいつらと仲良くできない。
この絵の中にルイスがいなきゃ、僕らは完成しないのだ。
「……」
僕の気持ちが伝わったのか、ルイスは赤いクレヨンでくるくる丸を描いた。
そうして他のクレヨンも使って、僕とウィリアムとアルバートの絵にはルイスが加わって、ルイスの絵はようやく完成する。
描くのに集中していたルイスは、ずっと倒れてたままの僕を起こして膝の上に座らせてくれた。
「ねこさん、ぼく、じょうずにおえかきできました。にいさんとにいさま、はやくかえってこないかな」
僕のことをぎゅうと抱きしめて、ルイスは少しだけ寂しそうにおしゃべりをした。
親分の僕がいるから寂しすぎることはないけど、やっぱり寂しいのは仕方がないのだ。
ルイスは僕のことと同じくらいに、ウィリアムとアルバートのことがだいすきなのだから。
「はやくみせたいです」
よろこんでくれるかな、ほめてくれるかな。
そわそわしているルイスを安心させるように、僕は自慢のふわふわツヤツヤな毛並みをルイスの腕に当ててもふらせる。
もふん、と滑らかな毛並みはどんなときでもルイスを虜にするから、きっとルイスは喜ぶはずだ。
「ねこさん、きょうもふわふわですねぇ」
ほら、やっぱり。
寂しいときだって、ルイスは僕を抱っこすればすぐに嬉しくなってしまうのだ。
親分たるもの、子分のメンタルケアは大事な仕事である。
ルイスは僕の自慢の毛並みにほっぺたを埋めて、嬉しそうな声を出して僕をぎゅうと抱きしめた。
僕はルイスの親分だから耳を掴まれても我慢してあげるけど、やっぱり抱っこしてもらうのが一番すきだ。
僕には及ばないけれど、もちもちふわふわしたルイスのほっぺたは中々気持ちが良いのである。
「ねこさん、プリンどうぞ」
お絵描きをして遊んだ後はおやつの時間である。
ルイスはしわしわの大人に促されるまま手を洗って、僕を隣に置いてから自分の椅子に座った。
そうしてプリンというぷるぷるのお菓子をスプーンで取って、僕に分けてくれようとする。
「ねこさん、プリンきらいですか?いらない?」
ルイスはウィリアムにもアルバートにも負けないくらい、優しい人間である。
僕の子分だから当然だが、いつもおやつを僕に分けてくれるのだ。
だけど悲しいことに、僕はプリンを食べられない。
いらないのだと、そう言葉に出して伝えることも出来ない。
「きょうもねこさんたべてくれないですね…またあしたになったらたべられるかな」
しょんぼりしたルイスは僕に分けようとしてくれたプリンを自分で食べた。
明日も明後日も僕はプリンを食べられないけれど、ルイスが僕におやつを分けてくれるのは嬉しいから、明日も明後日もおやつを分けてほしいと思う。
ルイスは僕がだいすきだから、この先ずっと最初の一口を僕に分けてくれるのだろう。
いつか親分パワーでプリンを食べられる日が来ると良い。
そしたら僕も嬉しいし、ルイスもきっと喜ぶから、僕は親分パワーを磨かなければならないのだ。
「そろそろおべんきょうのじかんですね。ねこさん、あっちのおへやにいきましょう」
おやつを食べたら今度は勉強の時間である。
まだ子どものルイスだが、ウィリアムとアルバートと同じようにルイスも勉強をするのだ。
お絵描きしたり積み木で遊ぶ方が楽しいのに、どうやらルイスは勉強がすきらしい。
僕は勉強がすきではないけど、子分のルイスが頑張って勉強しているから、親分として勉強せざるを得ないのである。
「る、い、す、じ、ぇ、む、ず、も、り、あ、て、ぃ」
ルイスは文字を一つ一つ読んでいって、鉛筆で文字をなぞっている。
あんなに小さかったルイスなのに、今では絵本も読めるし、自分の名前も書けるのだ。
子分の立派な成長が誇らしい。
ちょっと前のルイスは僕の耳を食べたり、拗ねて僕のことを置き去りにしたり、寝相が悪くて僕のお腹に頭を乗せていたりしていたのに。
ルイスに歯という牙が生えてからは、耳を齧られるのはちょっと嫌だったのが懐かしい。
それに置き去りにした後、泣きながら僕のことを迎えに来てくれた。
寝相が悪いのは今もたまにあるけど、ルイスに枕代わりにされるのも親分の宿命なので仕方がない。
僕はルイスの親分だから、ルイスがすくすく大きくなるのを見守らなければならないのだ。
「ね、こ、さ、ん…ねこさん、ねこさんのなまえ、こうやってかくんですよ」
ルイスは紙に僕の名前を書いて、見やすいように僕の体を持ち上げてくれた。
そこには「ねこさん」という僕の名前が書いてある。
猫の僕に「ねこさん」なんて名前を付けたのはこのルイスで、センスの無さをついつい嘆いてしまう。
でもにっこり笑うルイスは可愛いから、僕は仕方なく許すのだ。
センスのない子分が付けた名前だとしても、きちんと大事にしてやるのが親分の役目である。
だから僕は「ねこさん」という名前の猫なのだ。
「こっちはにいさんのなまえで、こっちはにいさまのなまえなんですよ」
にこにこ笑うルイスはとっても可愛い。
さすが僕の子分なだけある。
僕はこの可愛い笑顔がなくならないよう、ずっとずっとルイスの隣にいてあげるのだ。
ルイスは僕をぎゅうと抱きしめて、壁にある時計という時間が分かるものを見た。
「にいさんとにいさま、はやくかえってこないかなー」
遊んで、おやつを食べて、勉強をしていると、あっという間にウィリアムとアルバートが帰ってくる時間になった。
ルイスはそれが分かっているようで、機嫌よく僕を抱っこしたまま玄関という大きな扉のところへ行く。
ウキウキそわそわ、ルイスはだいすきなウィリアムとアルバートに会える気持ちで浮かれている。
その証拠に足が謎のステップを踏んでいるし、調子の外れた鼻歌を歌っているし、顔はにこにこと可愛く笑っているのだ。
僕はそんなルイスを見るのがすきで、ルイスにこんな顔をさせるウィリアムとアルバートがちょっぴり羨ましかった。
「ただいま、ルイス」
「遅くなってしまってすまなかったね」
「にいさん、にいさま、おかえりなさい!」
大きな扉が開いて、そこからウィリアムとアルバートが入ってくる。
ルイスは待ち侘びていたように僕を抱っこしたまま二人に突撃して、ぎゅうぎゅう抱きしめられていた。
僕はウィリアムとアルバートとルイスに挟まれてちょっとだけ苦しい気がする。
でも、僕はこのぎゅうぎゅうが嬉しいのだ。
ルイスが喜んでいて、ルイスをすきなウィリアムとアルバートが喜んでいるのも分かって、僕はつられて嬉しくなる。
「ぼく、にいさんとにいさまにみてほしいものがあるんですよ!」
ルイスはウィリアムとアルバートがだいすきだ。
でも、ルイスは僕のこともだいすきなのだ。
その証拠に、ルイスはウィリアムとアルバートに抱っこされても僕のことを離さない。
僕はウィリアムよりもアルバートよりもルイスに近いところで、ルイスに抱っこされている。
ルイスとずっと一緒にいて、ルイスがひとりぼっちにならないよう、僕がずっとそばにいるのだ。
「ねこさんといっしょにおえかきとおべんきょうしたんです。ねぇねこさん」
僕はルイスの親分だから、ウィリアムとアルバートがいなくてもルイスが寂しくないよう頑張らなければならない。
そうしたらルイスは笑ってくれる。
僕はルイスの親分だから、子分のルイスが笑ってくれるのが嬉しいのである。
(ルイスが大きくなっても、僕はずっとずっと、ルイスのそばにいるからな)
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