ほっぺたすりすり


ウィルイスのいちゃいちゃ甘々なお話。
ルイスの愛情表現が右頬すりすりだったら可愛いなぁと思った。

モリアーティ家の屋敷を焼いたときから、ルイスにはとある癖が出来てしまった。
人をプロファイリングする上で癖というものは非常に重要だ。
何せ人間を個人たらしめるものなのだから、癖の有無と自覚の程度はまず真っ先に把握しておく必要がある。
外見などいくらでも取り繕うことが可能だが、その人個人を取り繕うのは難しい。
だからこそ人と相対するとき、ウィリアムは真っ先にその人らしさを感じる癖を見つけるよう心がけていた。
そんなウィリアムなのだから、ルイスが持つようになった癖に気が付かないはずもない。
いや、ルイス自身は癖だとすら認識していないのだろう。

「ルイス」
「っ…兄さん、」
「あぁ、ごめんね」

あの日以降、ルイスは右頬の火傷跡に触れられることを嫌う。
それどころかウィリアムの視界にも入れさせたくないようで、他にも色々な理由はあれど、結果的にその右頬を隠してしまうまで髪を伸ばしてしまった。
選んだのはルイス自身なのだから、ルイスの全てを肯定したいウィリアムは何を言うこともない。
その傷跡はルイスが自分の計画の成功を願い負ってくれた大切なものだ。
ウィリアムにとってもとても大切で、愛おしいルイスの愛おしい一部になる。
けれど、その愛おしい部分に触れられることをルイスは良しとしていない。

「今から何か用があるのかい?」
「今日は兄様が気に入っているチョコレートを買いに街まで行ってきます。もうすぐストックがなくなりそうなので」
「そう。気をつけて行ってくるんだよ」
「はい」

右頬に触れようと伸ばしたウィリアムの左手を、震える体で拒否したルイス。
次にその左頬へ触れようと伸ばしたウィリアムの右手を拒否することはなく、むしろ自ら擦り付けるように首を傾ける仕草がとても可愛らしかった。
ルイスはウィリアムに触れられることを好いている。
抱きしめられれば嬉しそうに背中へと腕を伸ばし、額にキスをすれば大きな瞳は蜜を落としたように美しく煌めくのだ。
ウィリアムはルイスの体に触れることを好んでいるし、ルイスもそれを気に入っているのだから、二人が触れ合うことにはメリットしかない。
そもそもルイスの体にウィリアムが触れたことのない場所なんて存在しないのに、あの日以来、ルイスは右頬だけは触れられたくないと控えめながらも全身で拒否するようになってしまった。
嫌っているのならばいっそ綺麗に治してしまえばいいと思ったけれど、ルイス本人はその傷を誇らしく思っているようなので迂闊に治療することも出来ない。
ルイスが誇りに思うのならばウィリアムにだって誇りそのものなのに、何度それを伝えても小さな頭は頷いてくれなかった。

「あの傷こそが僕達三人の始まりなんだけどなぁ…」

きっとルイスもそう思っているからこそ、あれ以上に治したくないのだろう。
ウィリアムだけではない、アルバートだってルイスの傷をとても愛おしく思っている。
幼く可愛い顔立ちに似つかわしくない、痛々しく爛れた皮膚。
とても可愛くて、とても大切な、たった一人の弟であるルイスの一部だ。
ウィリアムは存分に触れて、この身に湧き上がる愛おしさを余すことなく伝えてあげたいと思っている。
けれどウィリアムがそう考えているのと同じくらいに、ルイスはそこに触れられたくないのだろう。
無理に触れようとして可愛い顔が恐怖で染まる様子は見たくない。
怖がらせないよう優しく触れるべく何度も試したけれど、結局その度に反射的に拒否されてしまうのだから、もはやそれはルイスの癖になってしまっているのだろう。
幸い、その癖はウィリアムが触れようとさえしなければ表に出ることはない。
染まりやすい無垢なルイスらしく、ウィリアムが関与しなければルイスはさほど個性らしい個性が持たないのが特徴だ。
そんな弟にようやく癖が出来たかと思えばやっぱり自分に関することで、しかもあまり喜ばしくないルイスの個性になっている。
自分こそがルイスの根幹に成り立っているのだと思えば気分は良いけれど、どうせならもっと自分への執着が表に出るようなものが良かった。
今のままでは満足いくまで愛でることも出来ないとんだ悪癖だ。
徐々にその悪癖がなくなってくれれば良いけれど、と思いながらウィリアムはソファに体を沈めて瞳を閉じた。



「にぃさん、ん、んん…ふふ」
「…ルイス」
「ん〜…」

頬に火傷を負ったあの日からしばらくした頃から、ルイスは右頬に触れられようものなら全力で拒否をする癖が出来てしまった。
ウィリアムはそれを悲しく寂しいと思って過ごしていたのだが、あれから数年経った現在、ルイスに新しい癖が出来ていることに気が付いた。
兄弟という一線を超えて肌を重ねるようになってから気付いたそれに、おそらくルイス自身は気付いていないのだろう。
現に今、その癖を披露しているルイスはぼんやりとした表情でふわふわ笑っている。

「兄さん、兄さん」
「なぁに?」
「ん、ふふ…兄さん」

情事後で温かい体を抱きしめ余韻に浸っていると、ルイスからすりすりと頬を押し付けられた。
爛れた皮膚を持つ右頬をウィリアムの右頬に押し当ててはぐりぐり密着させてくる。
あれほど触れられたくないと頑なだったはずなのに、快楽に溺れた後になると自らその傷をウィリアムに押し付けて嬉しそうに笑うのだ。
翌朝にはまた拒否してしまうし、最中にもあまり触れてほしくないようで必死に庇い牽制してくる。
けれど程良い疲労感に身を任せた事後になると我慢していた理性が飛ぶようで、随分な甘えたになってしまうのだ。
最中にこそ理性が飛べば良いだろうに、結局最後までは保たない詰めの甘いところがルイスらしいといえばとてもルイスらしい。

「兄さん」
「ふふ」

まるでマーキングするかのように自分に右頬を押し当てるルイスを初めて知ったとき、ウィリアムはとても驚いたし戸惑ったけれど、それ以上に歓喜で胸がいっぱいになったことをよく覚えている。
想像していなかったあまりの出来事に胸が打ち震え、挿入まではいかずとも、ついついその後もルイスの体を弄り回したのは記憶に新しい。
始めはそれきりのことなのかと思っていたけれど、あれから何度体を重ねても決まってルイスは事後に右頬をウィリアムへと擦り寄せてくる。
そしてそれを翌朝には覚えていないし、このとき以外はいつも通りに触れることを拒否してしまう。
セックスの後、快楽で思考が定まらずに心地良い疲労が残る状態で甘やかしているときにだけ見せる、爛れた右頬をウィリアムに押し付けるというルイスの癖。
大切な弟の体に残っている狂おしいほどに愛おしいそれは、ルイスにとってもウィリアムにとっても一際特別で大切な、始まりの証だ。
醜いからと触れさせるどころか見せてもくれなかったのに、染まった状態であるならばその大切な証さえもウィリアムに差し出してしまうルイスが愛しくて堪らなかった。

「ルイス」
「んん、…はい?」
「だいすきだよ、愛してる」
「…!兄さん、兄さん」

頬に当てられる感触はざらざらと歪なものなのに、もっと触れていたいという気持ちが全身を突き動かす。
逆らうことなく細い体を強く抱きしめればルイスが可愛らしく甘えてくる。
触れ合う素肌が心地良くてうっとりと余韻を楽しんでは甘えてくるルイスを受け入れていると、ルイスも嬉しそうに笑みを浮かべてしがみついてきた。
すきだよ、ルイスがだいすきだ、とウィリアムが甘く囁けばルイスは喜び、声に出して返事をするのではなくその右頬を押し当てることで同じ気持ちを返してくれる。
ルイスにとっては言葉よりも体で示す方が気持ちの大きさを表しやすいのかもしれない。
何も持たないルイスが唯一「ウィリアムのために役に立てた」と自信を持っているのがその右頬だ。
だから目一杯の愛情を表現したいとき、一番自信を持っているそこをウィリアムにアピールしたいのだろう。
無意識のうちの行動だからルイスに自覚はないし、ウィリアムもそこまで深くは察していない。
けれど翌日には忘れてしまうのにいつも同じように行動するルイスの本質には気付いており、それがどれだけルイスにとって大切な癖になっているのかも検討が付いている。

「ルイス」
「兄さん」

普段は触れられたくないと嫌がる右頬を無防備に擦り寄せるルイスの癖、何よりの愛情表現。
こんな癖ならば大歓迎だと、ウィリアムは無邪気に抱きついてくるルイスを思い切り抱きしめては愛おしさで胸をいっぱいにするのだった。



(ルイス、こっちを向いて)
(はい?…兄さん、あの、そこは…いや、です)
(どうしても駄目?)
(…駄目、です)
(そう、残念)
(…?(最近、すぐに引いてくれるのはどうしてだろう))

(兄さん、兄さん)
(ふふ、ルイス擽ったいよ)
(ん〜…ん、ふふ)
(もう、仕方ないなぁルイスは)

のらくらり。

「憂国のモリアーティ」末弟中心ファンサイト。 原作者様および出版社様、その他公式とは一切関わりがありません。

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