一緒に食べると美味しさ三倍!
三兄弟が仲良く美味しいシュークリームを食べるお話。
ルイスは運がないので欲しいものは大抵手に入らないか手に入るまで時間がかかると思う。
どうぞ兄弟三人でお越しください、という文面の元、アルバートは弟達を連れてロックウェル伯爵が懇意にしているという貴族の屋敷へ赴いていた。
どうやらアルバートが爵位を継承する前にモリアーティ家との繋がりを持っておきたいらしい。
ロックウェル伯爵が懇意にしているだけあって悪い噂を聞くことのないキース子爵。
幼少時に何度か会ったことはあるが、さして興味もなかったから印象は薄かった。
それでも向こうは穏やかにモリアーティ家の子息を出迎えてくれて、子爵夫人と三兄弟は小さなお茶会を楽しんでいた。
繊細な作りのティースタンドには、定番となる軽食からスイーツまでが見栄え良く飾られている。
「とても美味しい紅茶ですね。さすがキース家の執事は手慣れている」
アルバートは手本のようにカップを持ち、淹れたての紅茶を熱がることなく一口味わう。
その言葉に同意するようにウィリアムは頷き、ルイスは火傷をしないよう少しだけ舌に乗せた紅茶の風味を確かめている。
渋みのないクリアなそれは茶葉本来の味を引き出しているようで、アルバートの言葉通りさすがの技術だと尊敬した。
ルイスは今まさにジャックに紅茶の淹れ方について教わっている最中だ。
単純なようで奥が深い紅茶の世界は知れば知るほどに難しくて、けれどウィリアムとアルバートのために美味しい紅茶を淹れたいと願う一心でルイスは懸命に勉強している。
勉強しているからこそ、この紅茶のレベルの高さには感心してしまう。
きっと同じ茶葉と同じ水、同じカップを使ったところで、ルイスが淹れる紅茶はこれほど風味豊かには仕上がらないだろう。
「兄さん、この紅茶美味しいですね」
「ん?…うん、そうだね」
貴族の息子らしいカップの持ち方はルイスにはまだ難しく、長い時間カップを持つことが出来ない。
ゆえに一度カップをソーサーに置いてから、隣に座るウィリアムにこそりと耳打ちしては紅茶の美味しさを分かち合おうとしたのだが、どうにも兄の反応は乏しかった。
けれどルイスは気のせいだろうと、ウィリアムの向こう隣に座るアルバートを見てはじっと視線を送る。
モリアーティ家の代表としてこの屋敷に居る彼はルイスの視線に気付いていたが、机を挟んだ向こうに夫妻がいるのだから気を逸らしては失礼だろうと敢えて反応をしなかった。
それでも一度だけ、期待に満ちた末っ子の視線を無視しては長兄としての名が廃るだろうと、ちらりと視線を寄越してあげる。
綺麗な翡翠色を見たルイスはアルバートの意図が分かったようで、満足げに瞳を輝かせてからもう一度美味しい紅茶に目をやった。
「(僕も早くこれくらい美味しい紅茶を淹れられるようになりたいな)」
「(美味しいのかなぁ、これ…)」
決意に燃えるルイスとは対照的に、アルバートから教わった流麗な持ち方でカップを手に取り琥珀色の液体を見るウィリアムの脳内は疑問でいっぱいだ。
社交辞令を嫌うアルバートがわざわざ評価したのだから相当なポテンシャルを秘めていて、師であるジャックに執務を習っているルイスが興奮したように耳打ちしてきたのだからきっと美味しいのだろう。
だが味にこだわりのないウィリアムにしてみれば、「うん、紅茶だなぁ」という感想しか出てこなかった。
何なら雑味が混ざってしょんもりしていたルイスが淹れた紅茶の方がよほど味がして美味しかったとすら思う。
なるほど、これが美味しい紅茶の味なのか。
そう判断したウィリアムは、そう思い込むことでキース家執事が淹れた上等な紅茶を口にした。
「さぁ皆さん、デザートはどちらになさいます?ロンドンに私が贔屓にしているお店がありまして、そこからいくつか用意してもらったものなんですのよ」
「妻のお墨付きです。味は保証しますよ」
「私のお勧めはショートケーキとチョコレートケーキかしら」
「それは楽しみですね。ウィリアム、ルイス、好きなものを選びなさい」
紅茶とともにアミューズやサンドイッチ、パイを食べながら、主にアルバートと夫妻の会話が和やかに続いている。
時折ウィリアムが会話に混ざり、ルイスは静かに場の空気と化していたけれど、それを良いことに紅茶の味や食事の味を覚えていた。
ロックウェル伯爵家のシェフとは違う味付けは食べていて興味深い。
黙々と、しかし卑しく見えない礼儀正しさと品の良さで食事を進めているルイスを咎める人間はいなかった。
そんな中でデザートを味わうタイミングとなり、珍しく同じ種類のないケーキが五つ乗っている。
選ぶよう促されたウィリアムは少しだけ思案して、戸惑っているルイスの分までケーキを選んでいく。
「では、僕にはシュークリーム、ルイスにはショートケーキをいただけますか?」
「っ…ウ、ウィリアム兄さん、僕シュークリームが良いです」
「え?でも」
「兄さん、ショートケーキがお好きでしたよね。キース夫人のお薦めというのだから是非召し上がってください」
「…そうだね、ありがとうルイス」
婦人がお薦めというのならばその二つだけは選ばなければ失礼に値する。
贔屓にしているということは何度か味わったということであり、今日この時間に婦人を慮って二種類のケーキを残すのは得策ではないだろう。
そう考えたウィリアムはいちごの乗ったショートケーキをルイスに、チョコレートを好むアルバートにチョコレートケーキを食べてもらうべく希望を口にした。
だが実際にはルイスに阻止されてしまい、ウィリアムが考えた思惑とは別の結果となってしまう。
アルバートは婦人とウィリアムの意思を汲んでチョコレートケーキを選び、残ったフルーツタルトとレモンパイは夫妻が食べることとなった。
「ルイス、いちごが乗ってるのに良かったの?」
「良いんです、兄さん。婦人がお薦めしているケーキ、兄さんでも兄様でもない僕が食べるなんていけません」
「ルイス…」
こそこそと小さく交わされる言葉が意味しているのは、ルイスが養子であることに他ならない。
ウィリアムにしてみれば愛しい弟で、アルバートにしてみても大切な弟でしかないはずなのに、他人の目から見たルイスはあくまでも養子の末弟、元孤児の人間でしかないのだ。
ケーキひとつでごちゃごちゃいう人間がいるなど信じたくもないが、要らぬ火種は生まないに限る。
ルイスの徹底した振る舞いはウィリアムの心に影を落とし、アルバートの心にも小さな楔を打ってしまった。
だが、それが正しいだろうこともまた事実だ。
否定するだけの理由もなく、ウィリアムは大人しくショートケーキに乗った真っ赤ないちごを口にする。
瑞々しく甘酸っぱいそれは濃厚なミルククリームとの調和が抜群に取れていた。
「…ほう、確かに仰るとおり絶品ですね。まろやかな甘さのチョコレートムースと、アクセントになるラズベリーの実がとても美味しい」
「そうでしょう?そのチョコレートケーキ、私が食べた中で一番の品なんですのよ」
「このショートケーキもとても美味しいです。生クリームが濃いんですね、あまり食べたことのない風味がします」
「分かりますか。どうやらミルクをベースにした蜜を使っているようでしてね、通常の生クリームとは違うのですよ」
「さすがはキース家、良い店を知っているのですね」
「ふふ、このケーキを出す店はロンドン駅近くの一頭地に店舗を構えておりますのよ。機会がありましたら是非お立ち寄りくださいな。キースの名を出せば限定メニューも出してくれますわ」
アルバートとウィリアムが夫妻と穏やかに会話をしている最中、ルイスは一人黙々とシュークリームを食べていた。
アルバートに拾われてから初めてまともに菓子を食べたけれど、脳が痺れるくらいにとても甘い菓子の類は今になっても食べ慣れない。
だが苦いものよりよほど美味しくて、ルイスはいちごやバウムクーヘンを含め甘いお菓子がだいすきだ。
ケーキも何度か食べたことがあるし、シュークリームも前に一度だけジャックが用意してくれた。
だから初めて食べるわけでもないのだが、今日のこのシュークリームは以前食べたものよりよほど優れているようで、びっくりするくらいに美味しかった。
「(…お、美味しい…!)」
サクサクのクッキー生地をナイフとフォークで切り分けて見えてきた黄金色のカスタードクリーム。
砕いたバニラビーンズを入れているようで、濃厚で甘い香りが漂ってくる。
どろりと流れるでもなく生地の中に収まっているそれを小さく切り分けて口に運べば、クッキーとクリームの絶妙なバランスが驚くほどに美味しかった。
たっぷりのクリームなのにしつこくなく、熱々の紅茶ととても合う。
思わず夢中で二口、三口と食べていき、この美味しさを知ってもらうべく顔をあげてウィリアムとアルバートを見た。
「ウィリアム兄さん、ぇ、と…」
「ルイス?シュークリーム、美味しかったのかい?」
「…はい。とても美味しいシュークリームですね。こんなに美味しいシュークリーム、初めて口にしました」
「まぁそれは良かった」
「素晴らしい機会をありがとうございます、キース婦人」
振り向いてくれたウィリアムの顔を見て、そうして変わらず夫妻から目を離していないアルバートの横顔を見る。
行儀は悪いかもしれないが、いつもならここで彼らに一口分けているはずなのに、今は他人の目があり難しい。
それに気付いたルイスはウィリアムの返事とともに夫妻へと言葉を返し、再び黙々とシュークリームを食べ進めた。
会話に参加しなかった養子など気にかけていなかったけれど、キース家御用達の洋菓子店のケーキが口に合わないはずもないと、ルイスの言葉を聞いた婦人は満足気だ。
ルイスが気に入ったのなら良かったと、ウィリアムもアルバートも機嫌良く微笑んでいる。
そんな中でルイスだけがただ一人、複雑な顔でシュークリームを食べていた。
「(せっかく美味しいのに、一人で食べなきゃいけないなんて…)」
とても美味しいシュークリーム、たった一人で味わっていても美味しさが半減してしまうようだ。
一緒に分けて食べるから美味しいのに一人で食べてもつまらないと、早々に膨れてしまったお腹を残念に思いながらルイスはシュークリームを食べていた。
「あの、アルバート兄様。…これから一週間、今まで以上に仕事を頑張るので、少しだけお金をいただけないでしょうか?」
「何か欲しいものがあるのかい?仕事に構わずあげるよ、どのくらい欲しいんだい?」
「いえっ、ちゃんと代金分のお仕事はします!」
「そう…施しではなく、対価に見合う仕事と引き換えにしたいということかな。ルイスはしっかりしているね」
「そんなこと…」
「ではルイスの気持ちを汲んで、一週間だけ君の仕事ぶりを見ていようか。来週、僕が認めた分だけの金額を君にあげよう」
「ありがとうございます、アルバート兄様!」
キース家とのお茶会を終えてしばらくした後、ルイスは自分の部屋にあるコインを探していた。
けれど元々ルイスは一切の金銭を持っておらず、欲しいものはアルバートから潤沢に与えられているから困ったこともない。
それが今、とんだ弊害となっていたのだ。
ルイスはどうしてもロンドン駅の一頭地に店舗を構えるという洋菓子店のシュークリームを、ウィリアムとアルバートにも食べてほしかった。
だがそれには相応のお金が必要で、その金額をルイスがすぐに捻出するのは困難である。
お小遣い、というものをルイスはもらっていない。
かといってアルバートに理由を話してシュークリームを一緒に食べるというのもおかしな話だ。
ゆえにルイスは昔を思い出し、労働と引き換えにお金を稼ぐべくアルバートに申し出たのである。
当のアルバートは少しだけ訝しんでいたけれど深く探ることはせず、ルイスの意思を尊重して話を合わせてくれた。
日頃のルイスを知っているからこそ、妙なことはしないと信用してくれているのだろう。
その信頼がとても嬉しくて、ルイスは張り切ってアルバートの役に立つべくいつも以上に執務を頑張っていた。
「ウィリアム兄さん、アルバート兄様、僕は今から買い出しがあるので少し離れますね!」
「ルイス、何だか楽しそうだね。どうかしたのかい?」
「何でもありません!では行ってきます!」
「気をつけて行っておいで」
「行ってらっしゃい」
約束の一週間、ルイスは一生懸命に働いた。
その頑張りはアルバートの目にもウィリアムの目にも明らかで、どうしたのだろうと不思議に思いながらも張り切っている姿が可愛らしかったので、深くは追求せずにいた。
そうしてアルバートが相場よりも随分と多い金額を「よく頑張ってくれたね」という言葉とともにルイスに与えたところ、ルイスは嬉しそうに笑みを浮かべて出かけると言い出したのだ。
一人で出かけるのならば許さないけれど、隣にはジャックがいるから買い出しというのは本当なのだろう。
だが、実際にはアルバートからのお小遣いで何かを買うのだろうことは明白だった。
「何を買いたいんでしょうね、ルイス」
「おや、ウィリアムも知らないのかい?君は知っていると思っていたのだが」
「まだ内緒ですと言うものだから、そのうち教えてくれると思い放っておいたんです。ウキウキしているルイスは可愛かったので」
「ではお互い今日初めてルイスが何を買うのか知ることになるんだね。僕も楽しみだよ」
「自分で稼いだお金で買いたいというくらいなのだから、よっぽど欲しいものなんでしょうね…一体何だろう」
「楽しみに待てば良いじゃないか。待つ時間、推理してみるのも面白いだろうね」
そんな会話をしながら廊下を歩き、それぞれ家庭教師が来るまでの時間を潰す。
買い出しならば一時間もすれば終わるだろうし、家庭教師の授業中には帰ってくるはずだ。
早く終わらせてルイスを出迎えたいと、ウィリアムとアルバートはまだ来ぬ家庭教師に早く来いと念を送っていた。
「お帰り、ルイス」
「欲しかったものは買えたのかい?」
「…少し前に帰っていました、お二人とも。欲しかったものは…」
「もしかして、買えなかったの?」
「……はぃ」
家庭教師の授業を終えてすぐさまルイスがいるであろうリビングに向かうと、弟は花瓶に花を活けていたところだった。
落ち込んだ様子で俯くルイスの瞳は大きく潤んでいて、見るからに目当てのものは買えなかったことが分かってしまう。
小さな体がしょんぼりとますます小さくなっている姿が哀れみを誘っている。
ウィリアムは可愛い弟の悲しい出来事を慰めるべく、丸くなった背中を優しく抱き寄せて撫でてあげた。
「そう…悲しかったね、ルイス。何が欲しかったんだい?」
「…まだ、内緒です」
「だが、手に入れるには注文しなければならないだろう?教えてくれれば僕が手配してあげるから」
「良いのです、兄様。今日売り切れていただけで、また今度行けばきっと買えると思うので」
「ルイス…」
小さな顔に残る痛々しい傷跡は、この前やっとガーゼを外せるほどに治ってきた。
きっとこれ以上は治ることがないのだろうと思うほどには爛れていて、凛とした表情を浮かべているのならそれはとても気高く美しいもののように見える。
しかし今のように悲しみに暮れた表情をしているのならば、それはとても痛ましさを感じさせるものでしかなかった。
ウィリアムは可愛い弟の痛ましい様子に胸を締め付けられ、思わず抱きしめる腕に力が入る。
強くなった力の分だけ同じ力を返したルイスは、彼の肩に目元を伏せて唸るように悲しみを表出した。
アルバートはそんな弟達を見ては悲痛さで苦しくなるのと同時に、これが兄弟というものなのかと感極まっている。
「悲しかったね、ルイス。今度はきっと買えるから、今日は我慢しようね」
「…はい」
「偉いな、ルイスは。立派だよ」
「…ん」
しょんぼり落ち込むルイスを必死に慰め可愛がるウィリアムとアルバートだが、淡々としているルイスがそんなにも求めるものが一体何なのか、皆目検討も付かなかった。
「ウィリアム兄さん、アルバート兄様!休憩にしましょう!」
そんなことがあってからしばらくした頃。
何度かしょんぼりするルイスを見かけたかと思えば、今日は見るからに浮かれている様子のルイスがいた。
そわそわしている様子はとても可愛くて、数日ぶりに見た元気の良いルイスはウィリアムとアルバートの心に染み渡っていく。
可愛い弟にはやはり笑顔がよく似合うのだと、懸命に抑えて表情を崩さないように頑張るルイスから滲む喜びのオーラを浴びていた。
「今日はウィッシィズの茶葉を使ったホットティーを用意しました!デザートにはシュークリームをご用意してます!」
「あれ?このシュークリーム、もしかして」
「はい。以前、キース家で出されたものと同じものを用意しています」
「そうだったのか」
丸いクッキー生地には真っ白い粉砂糖が振るいかけられており、雪解けの山のようなビジュアルだ。
あの日にルイスが食べたこのシュークリーム、ウィリアムとアルバートが口にするのは初めてである。
「このシュークリーム、とっても美味しいんですよ!本当はあのとき一緒に食べたかったんですけど出来なかったので、ずっと買い出しのときに探してたんです。でも人気らしく中々買えなくて、やっと今日買えたんです!」
にこにこと笑みを浮かべながらカップに紅茶を注ぐルイスは実に誇らしげだ。
温かい湯気の立つ紅茶はとても香り高く、飲む前からさぞ美味しいだろうことが予測出来る。
「どうしても兄さんと兄様にも食べていただきたかったんです。さぁ召し上がれ」
あまりにも嬉しそうに、かつ幸せな雰囲気を撒き散らすルイスが眩しいほどだった。
珍しく勢いよく喋る様子も可愛かったので口を挟むことなくその言葉を聞き入れ、二人は促されるまま紅茶を飲んでからシュークリームにナイフを入れる。
割った途端に見えてくるたっぷりのクリームは金色に煌めいていて、けれどその様子を見守るルイスの表情の方がキラキラとしていた。
「とっても美味しいんですよ。きっと兄さんと兄様も気に入ると思うんです」
自分が美味しいと感じたものを二人にも食べてほしくて、そのためにお金を稼いで何度も店に通ったのだ。
一人で食べても美味しさを堪能することは出来なくて、きっとウィリアムとアルバートと一緒に食べれば抜群に美味しくなると、ルイスはそう確信している。
早く食べてくださいと、ねだるように二人を見ればルイスの願い通り切り分けたシュークリームを食べてくれた。
「…あ、美味しい」
「確かに。サクサクの生地と濃厚なクリーム…珍しいものではないはずなのに、おそらく職人の腕が良いのだろう。随分と素晴らしい出来だな」
「そうでしょう!?」
二人から聞こえてきた感想にルイスは至極満足だ。
思わず両手を合わせて指を組んで喜んでしまった。
その様子がとても幼くて、可愛らしくて、ウィリアムとアルバートはシュークリームの美味しさ以上の満足感を自覚する。
「とても美味しかったから兄さんと兄様と一緒に食べたくて、兄様にお金を頂いて買いに行ったんです。やっと一緒に食べられました」
そう言ったルイスはようやく自分の分のシュークリームを切り分けて一口頬張る。
大きくカットしたため口の中いっぱいに香ばしいクッキーと濃厚なクリームが広がり、その美味しさで思わず頬が緩んでしまった。
やっぱり美味しいシュークリームだけれど、あのときよりもずっとずっと美味しく感じる。
だいすきなウィリアムとアルバートと同じものを食べていること、二人が美味しいと言ってくれたことがその要因であることは明らかだ。
ルイスにとって、美味しいものは三人一緒に食べるのが一番美味しい食べ方なのである。
「ルイスは僕達とシュークリームが食べたくて頑張っていたんだね」
「ありがとう、ルイス。とても美味しいよ」
「兄さんと兄様にも美味しいと言ってもらえて嬉しいです」
まだ内緒、と言っていたルイスがこれだけ愛おしいことを考えていたと分かったのだから、ウィリアムとアルバートはシュークリームと紅茶を堪能する以上に満足してしまう。
自分が美味しいと思ったものを食べてほしいと願う気持ちも、それを叶えるために密かに努力していた姿も、ようやく念願叶って一緒に食べて幸せだという感情を隠さない笑顔も、ルイスの持つ何もかもが愛おしい。
しょんぼりと肩を落として悲しがっていた理由は間接的に自分達にあったのだと気付いたウィリアムは、唇にクリームをつけて笑っているルイスの体を抱きしめた。
ルイスがはしゃぐほどの美味しさは分からないけれど、ルイス込みで考えれば間違いなくこのシュークリームは世界で一番美味しいシュークリームだ。
美味しいね、と言ってあげればますます嬉しそうに笑うルイスが愛おしい。
アルバートはそんな二人を見て、それぞれの髪を撫でては穏やかな気持ちで満たされていた。
(ごめんください。シュークリームを三つくださいますか?)
(すみません、本日シュークリームは完売しておりまして)
(えっ?)
(他のケーキならご用意があるのですが…こちら、季節のベリータルトなどお勧めですよ)
(あの、僕ここのシュークリームをとても気に入っていて、とっても美味しくて…それで、兄にも食べてほしくて買いに来たのですが…もうないんですか…?)
(す、すみません…先程全て完売してしまいました)
(……また明日来ます。お手間をかけました)
(ま、またのお越しをお待ちしております!是非お越しくださいね!)
(明日からシュークリームの仕込みを増やすことにした。各自、よろしく頼む!)
(店長、今週の発注はもう終わっています。間に合いませんよ)
(な、何だと…!?では明日またあの子が来て、万一またシュークリームが完売していたら、私はまたあの捨て猫のような顔を見なければならないというのか…!?)
(捨て猫?店長、また猫拾ったんですか。今もう7匹いるって言ってたのに)
(くっ、あの捨て猫ボーイがどうか完売前に来てくれることを願うばかりだ…!)
(まさか一週間連続完売後に買いに来るとは予想していなかった。どこまで運がないんだあの捨て猫ボーイは。取り置きを勧めれば良かった)
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